『触れることの科学:なぜ感じるのか どう感じるのか』(デイヴィッド・J・リンデン)という本を読みました。

人間の五感の最後のフロンティアである「触覚」に切りこんだ一冊で、わたしたち鍼灸師にも大いに参考になる記述がありました。

脳の触覚地図は生涯を通じて固定されているものではなく、ひとりひとりの感覚経験により変化しうる(p88)

皮膚からの触覚信号は、それぞれ脳の対応する領域につながっており、大脳皮質に触覚の地図が描けます。

手や唇、舌に相当する領域は皮膚のセンサーの密度が高い(つまり刺激に敏感)ため、脳地図では非常に大きな範囲を占めています。

350px-Homunculus画像は「体部位再現」より引用

そしてこの地図は固定的なものではなく、変化しうるということです。

つまり、指先感覚は鍛えることができる、ということで、指先を使う職人や音楽家などは、この領域が普通の人よりも拡大していると考えられています。

私たち鍼灸師が訓練によって少しずつ皮膚の状態を「みる」ことができるようになるのも、この可塑性によるものでしょう。

そしてこのことは、患者さんの側にも同じことがいえます。

日常生活で、体を触れられる機会というのは(親密なパートナーとの接触の機会を除けば)そう多くはありません。

しかし、触診を受け、鍼を打ってもらうという経験は、その人の触覚を活性化させるでしょう。

そうなれば、患者さんは治療を受ける回数が増えるにしたがって、その脳ははじめと比べて、皮膚からより多くの情報を受け取れるようになり、もしかしたらその結果として治療効果も高まってくるのではないでしょうか。

これは私の経験ですが、鍼を受け慣れている方の方が、効果が顕著に出るように感じます。

もちろん、これは鍼治療の結果がどうなるのかを患者さんが予想できるから、という理由や、すでに信頼感が構築されていてリラックスしやすいという要因もあるのでなんともいえません。

しかし、経験を積むことで治療を受ける患者さんにもある種の「成長」が起こるのではないかと考えました。

 

また、人間の体を走る神経はいくつかの種類に分かれており、鍼灸の刺激を伝えるのはその中で痛みや温度を伝える「C線維」と呼ばれるものだと言われています。

本書では、このC線維はそれだけではなく、優しく撫でられる刺激を伝えるはたらきが備わっていることが紹介されています。

当院では、鍼・灸だけではなく、刺さない鍼「ローラーはり」を活用して高い効果を上げていますが、それはこのC線維に有効にはたらきかけられているからではないかと推測しています。

ローラー鍼

 

ほかにも、心に痛みを感じているときには、脳の体の痛みを感じる部分が活性化するなど、心と体の密接なかかわりについても認識を深めることができました。

 

あまりにも当たり前に存在する「触覚」を見直すにあたって、とても参考になる一冊です。装丁もとても美しいので、ぜひ、お手にとってみてください。