病院を表す”Hospital”と「もてなし」という意味を表す”Hospitality”が、語源を同じくする単語であることはよく知られています。手元にあるWisdom英和辞典によると、「主人(host)が客を接待する場所」という意味があるとのこと。

病院とは、治療する場所であるだけでなく、憩いの場、「宿」という役割があります。
現代日本ではどこにでも病院があって、気軽に治療を受けることができますが、はるか昔はそうではありませんでした。

古代ギリシャには、医薬の神アスクレピオスを祀る神殿ーアスクレピエイオンーが各地にあり、病人たちは治療を求め、はるばるそこまで旅をしていました。古代ギリシャの医療センターといったところです。

アスクレピエイオンに到着しても、そこですぐに治療が受けられるわけではありません。
病人は宿舎に入り、断食と沐浴をして順番を待ちました。そこで見た夢を神官に伝え、神官はその話を元に処置をしていました。競技場で運動したり、劇場で観劇することもあったそうです。

昔のことですから、多分に呪術的な要素があり、現代にそのまま適応させることなどできません。きっと、多くの患者が治療の甲斐なく命を落としたことでしょう。

しかし、病人たちが人里離れた清らかな「神域」を訪れ、そこで心を安らげ、神官との対話によって病を癒していたという点は注目に値します。

治療とは、身体の物理的な改変を試みるだけの行為ではなく、人が本来持っている自己治癒力を高める介入行為ですから、ベッドの上だけで行うものではありません。

私たちの治療院で言えば、ここに足を踏み入れた瞬間、極端なことを言えば、問い合わせの電話を頂いた瞬間から治療は始まっています。治療技術を磨くのは当然のことですが、居心地のいい環境づくりはそれと同じくらいに大切なことです。

鍼灸治療院ではもちろん沐浴も宿泊もしません。お菓子も出ません。

できるのは、世の雑事からすべて解放されて、ゆっくりと自分の体と向き合う時間を作るお手伝いくらいです。
治療の主役はあなたなのですから、それで十分でしょう。

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今日も丁寧に掃除した治療室でお待ちしています。

(記事執筆にあたっては、『神の手 人の手―逆光の医学史』(立川昭二)を参照しました)