鍼灸治療というのは高い集中力を要するものです。

鍼を打つ前には触診によって患者さんの皮膚に触れ、問題のある箇所を探します。患者さん自身の言葉で、「どこがつらい、ここが痛い」ということも聞き取って参考にしますが、最終的には触診によって判断を下します。

自分の体の内部に起こっていることを、本人が正確に把握することはできないからです。

そのため、治療家は自身の感覚を頼りに、患者本人にもわからない治療のポイントを見つけ出さなければなりません。

したがって、わたしたちは指先に集中して治療に臨んでいるというわけです。

しかし、それでも慣れというものはやってきます。患者さんとお話をしながらでも治療はできますし、次に打つ場所のことなど、ほかのことを考えながらでも治療はできるようになってきます。

これを人は「熟練」と呼ぶのかもしれません。

しかし、最近わたしは、あえてその「慣れ」に頼ることなく、治療中に患者さんに触れるときや、鍼を打つときは、一切の集中力を指先に傾けようと考えるようになりました。

そうすることによって、さらに細かく治療ポイント(=「ツボ」)が識別できるようになるのではないかと考えています。

もちろん、治療中は時間のことや流れのこと、安全のことなど、気を配るべきことがたくさんありますので、最初から最後まで指先ばかりに注意を向けておくことはできません。

それでも、触診をしているとき、鍼を打つ瞬間は、指先だけに意識を集中させようと思っています。本当の集中状態に入れば、周りの音も耳に入らなくなるでしょうし、ただただ対象と自分とがいるだけの静かな世界に入りこむことができます。

そんな体験ができるくらい、真剣に治療に臨むことができればいいなと考えています。